1962年の高速の電動タイプライタ

過日、ePubPubにてBOOKSCANの20冊スキャンクーポンをゲットし、電子化(PDF)した本「思想としてのパソコン_」より、私がUIについて深く考えるようになったきっかけであるダグラス・エンゲルバートの論文の一節を引用。

「ヒトの知能を補強増大させるための概念フレームワーク」(1962年)- ダグラス・C・エンゲルバート

概念フレームワークの能力階層を例示するために、「文字テクストを作り修正する」という比較的低いレベルの能力で直接生じる人工物の技術革新について考えてみよう、そしてそれが能力階層にいかに影響するかを眺めてみよう。いま、きわめて特殊な機能をもつ高速の電動タイプライタがあるとする。従来のタイプライタと同様に、そのキーボードを操作してテクストを書くことができる。ただし印字機構はもっと複雑だ。すなわち、一打ちごとに目に見える字を印刷するだけでなく、印字機構のなかに目に見えない選択用部分があって、それで特別なコード化をおこなうことができる。補助装置として設けられるのは、筆記機械(またはその類似機械)から出力される印字列に沿って動ける、エンピツのような形のセンサーである。この読み取りセンサーから信号が電線を通じて筆記機械に送られ、読み取っている文字がわかり、自動的に複写タイプがおこなわれる。筆記機械には記憶装置があって、読み取リセンサーはユーザがタイプするよりはるかに速く印字列を走査することができる。ユーザが次にどの単語や単語列を複写しようかと考えて立ち止まったり、センサーが走査する定規のリポジショニングをしたりする間に、複写機構はたちまちユーザのタイプ動作に追いつく。

読んでお分かりのとおり、ここで丹念に描写されているものの結実が、今に続くディスプレイ・キーボード・マウスのインターフェイス3種の神器である。そして、こう続く。

この架空の筆記機械により新しいテクスト作成プロセスを用いることができる。たとえば、古い草案からの抜粋を並べかえ、新しく挿入するためにタイプした単語や文章と一緒にして、たちまち試案を作り上げることができる。最初の草案は、自分の考えを勝手な順序で自由に表したものでよい。そこでは以前考えたことに次々に刺激されて新たなアイデアや考察が生まれてくる。草案の考えがあまりに複雑にもつれてくれば、すばやく編集して順序を整えた草案にまとめあげることができる。自分の必要を満たす考えの筋道を探しつつ作り上げる思考の痕跡がさらに複雑に織りあげられていくというのは、ユーザにとって便利だろう。
自分の作業記録をすばやく柔軟に変更できるなら、ユーザは新しいアイデアを容易に統合でき、自分の創造性を継続的に活用できるようになる。容易に作業記録のどこでも変更して思考や細目の発展を受け入れられるならば、ものごとをおこなうときにいっそう複雑な手続きを組み込むことも簡単になる。おそらくそうすればユーザは、たとえば、現在担当している仕事で使用し様々に役立っているファイルがあるとすると、それをもっとハードに利用し保守していくことができるようになるだろう。このことから、ユーザは今度は、仕事場で自分の才能をいっそう活用するためのさらに複雑な手続きを案出し利用できるようになる。

コピー&ペーストとアウトラインプロセッサが知的作業の生産性に与える影響について考察されている。
エンゲルバートはマウスを考案した、だがそれだけではない。まずこうした思索があってマウスというデバイスにたどり着いているのである。
この本を読んだのは1997年の北京留学時代であったはずだけれども、何か一人で深夜極まってた覚えがある。

この、ディスプレイ・キーボード・マウスとウィンドウシステムにネットワーク、マルチユーザなど今のコンピュータのほぼ原型といえるのがNLS(oN-Line System)1968年、ほぼ半世紀前である。


Douglas Engelbart : The Mother of All Demos (1/9 ...

UI、UXが重要であるという言葉こそ多少の市民権を得、重視されつつあるとはいえ、まだまだ現役であるマウスとキーボードを見るにつけ、ここからどのくらい遠くにこれたんだろうか、とたまに思い返します。

LeapMotion早く来ないかなー。